車に置いてきたタモを取りに行ってくれたのだ。

「走り出すなよ…」今思えば、僕は意外なくらい冷静に対処していた。この時点では、まだアカメだと思っていたのだ。魚は幸いにも障害物のない方向へ泳いでいく。ハァハァと息を切らせながら、タモを手に濱本さんが戻ってきた頃には、魚のサイズが見えてきた。

「これ、ホントに魚?…とんでもなくデカい!」急に自分の足が震え出すのを感じた。これまで大きな魚は何度も見てきたが、明らかに別格。タモに収まりきらないことを見てとった濱本さんは、沼状の水辺に飛び込んだ。泥川に腰まで浸かってハンドランディングすべく待ち受ける。僕は、濱本さんがその巨大な魚を手に掲げたのを見てからもしばらくは呆然とその姿を見ていた。いつか雑誌で見て憧れていた光景が目の前にあった。

おまけに、その張本人である濱本さんの目の前で、彼のプロデュースしたルアーで釣り、彼にランディングしてもらって、その幸運をたぐり寄せた。運命とも感じるような偶然に、頭が真っ白になった。

ーーー「ボーっとしてんと、取りに来い!」

という濱本さんのうれしそうな声でようやく我に返った。

このDNAを
殺すわけにいかない

サイズを測る段階になっても、まだ僕は夢の中にいるようだった。

タイリクスズキ。121cm、15kg。

取材中にあがった中では、前代未聞のサイズらしい。

「どうする?これ剥製にでもするか?」

濱本さんに聞かれたとき、僕は、迷わず「リリースしましょう」と言い切っていた。実際にこの魚と対面する前までは、飛び切りのサイズを仕留めたら魚拓を取って、剥製にして…と考えていたはずなのに。

けれど、この巨大なる遺伝子をそんなことのために殺すわけにはいかない。この魚の子孫は、きっとまた大物のDNAを受け継いでいく。

見れば、まだまだ魚体は若い。さらに成長する可能性だってあるじゃないか。

リリースすれば、自分に感動を与えてくれたこの魚が、また違う釣り人に出会い、同じような感動を分かち合うこともできる…そんな光景が目に浮かんだ。

だから撮影する間も、写真映りよりもこの魚を弱らせないことを優先した。

水を手で送り、いたわりながら何枚かカメラに姿を納め、元気なウチに送り出した。またどこかで、会おうなと心の中でつぶやいて。

ロマンはどこかの海で、
未だに育ち続けている。

この一匹と出会うことで、いろんなことが変わった。夢だった雑誌の見開き記事に自分の姿があった。

ブログやフェイスブックでも大きな反響があり、フィッシングショーでも多くの釣り人から、「雑誌見ました!」と声をかけられた。人生で初めて、サインをねだられた時は、濱本さんに「どうやって書きましょ?」とこっそり相談した。

会社の人たちも、うれしそうに「雑誌、買ったよ」と笑ってくれた。

一匹の魚との出会いで釣り人は、変わっていく。僕は、APIAの掲げてきた「アングラーズユートピア」の1つのカタチを体感したような気がする。

そしてロマンは、
世界と繋がる高知の海で、
未だに育ち続けている。

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